転勤は退職・転職のきっかけになる?
転勤は、「配転」の一種です。配転とは、同じ使用者(企業)の下での職務内容や勤務場所の変更のことを言います。配転のうち、引っ越し(転居)を伴う勤務場所の変更が「転勤」と呼ばれます。
実際の転勤は、勤め先の企業から辞令を受けて、別の勤務地に移動することになります。企業により、転勤制度の有無や詳細は異なりますが、転勤によって勤務地が変わると、従業員やその家族のプライベートに大きな影響を与えることがあるでしょう。
2022年6月のエン転職による調査では、「転勤の辞令が転職のきっかけになる」と答えた人は全体の6割。特に20代では7割にのぼりました。
Q1.今後、もしあなたに転勤の辞令が出た場合、退職を考えるキッカケになりますか?(年代別)
Q2.今後、もしあなたに転勤の辞令が出た場合、退職を考えるキッカケになりますか?(男女別)
■調査期間:2022年4月26日~5月25日
■有効回答数:10,165名
退職を考えるきっかけに「なる」と答えた人からは、今後のライフイベントへの影響や、転勤後のモチベーション低下を懸念する声が挙がっています。
転勤後に職場環境がどのように変化するのか、自身のライフスタイルにどんな影響があるのか、特に就業経験の浅い若い世代が不安になるのも無理はありません。
なぜ転勤制度があるのか
日本企業は、転勤などの配転が非常に多いことが特徴です。終身雇用制度(長期雇用慣行)をとる企業は、従業員(特に正社員)を雇用し続けるため、社会や経済が変化しても、配転の制度によって社内の体制を柔軟に整えられるようにしているのです。
さらに、配転の中でも、転勤は高度経済成長時代に企業の規模が拡大し、他店舗展開や全国展開をするようになったり、地方企業が東京進出を図ったりする中で、頻繁に行われるようになりました。
転勤制度の目的は多様ですが、現在では主に下記が挙げられるでしょう。
人事異動による適切な人員配置
さまざまな事情により、各拠点や部門の人数を調整するケースが該当します。
- 欠員を補充するため
- 新しい部署・拠点にスタッフを集めるため
- 注力したい事業に人員を集中させるため
- 撤退する拠点・事業から人員を異動させるため
人材育成
日本企業は、その成り立ちからゼネラリスト(※)を育成していく傾向があります。転勤によって、さまざまなエリアで業務に携わり、経験を積んで視野を広げることが期待されています。
- 別の事業所や拠点で働くことで自社組織や業務について理解を深める
- (取引先や顧客が変わる場合)人脈を広げる・スキルアップする
- (業務が変わる場合)新しいスキルを得る
※ゼネラリスト……幅広い分野の仕事を経験し、知識やスキルが広範囲にわたっている人
経営幹部の育成
「地方拠点の支社長(トップ)などを経験させ、将来の幹部候補としての適性を見極める」といったように、転勤による人事異動が、特に経営幹部を育てるために行われる場合もあります。
不正・マンネリの防止
業種・職種によっては、取引先との癒着を防ぐために、転勤により一定期間ごとに担当者を入れ替える場合があります。また、同一地での勤務が続くことによるマンネリや部署内での慣れ合いを防ぐ目的でも転勤が行われることがあります。
転勤は拒否できるのか
転勤は従業員にとって成長や出世の機会となるなどのメリットがある反面、前述のように本人や家族の私生活への影響が非常に大きい制度です。また、従業員のキャリア形成にも関わる面があります。
従業員の側からすると、転勤を命じられた際に、はたしてその転勤命令を拒否できるのかが問題となります。この点に関しては、以下の2つの観点から考える必要があります。
【1】企業が従業員に転勤を命じる権利があるかどうか
転勤命令権の根拠
- 例:
- ・雇用契約書に転勤の可能性があると示されている
- ・就業規則に転勤の可能性があると示されていて、その就業規則が周知されている
- ・労働協約に転勤の根拠となる定めがある
上記などの場合、企業は従業員に転勤を命じることができます。従業員はその雇用契約や就業規則、労働協約に拘束されるため、原則としてその命令を拒否することができません。反対に、こうした根拠がなければ、転勤命令を拒否することが正当化されます。
勤務地限定特約
- 例:
- ・採用時などに、従業員が家庭やキャリア形成などの事情から、勤務地を一定の場所にすることを希望し、企業がそれを承諾している(「勤務地限定特約」がついた雇用契約が結ばれている)
- ・「勤務地限定正社員」のように正社員でも転勤のない契約
このような場合には、就業規則等に転勤命令権の根拠規定が存在しても、個別の契約が優先されるため、転勤命令を出すことはできません。
【2】企業が転勤命令に関する権利を濫用していないか
企業に転勤命令権があっても、その命令が「権利の濫用」である場合には、無効となります。
労働法上、転勤命令そのものに関する条文は存在しないため、労働契約法第3条第5項の「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない」という規定を根拠に権利濫用の有無を判断することになります。
過去の判例として、東亜ペイント事件判決(最二小判昭和61・7・14)が、以下の3つのいずれかに該当する場合は権利濫用で無効であるとしています。
- 業務上の必要性がない場合
- 不当な動機・目的がある場合
- 通常甘受すべき程度を著しく越える不利益がある場合
①について、この場合の「必要性」とは通常の人事上の理由であれば該当するでしょう。「転勤するのはその人でなければならない」ことまでは求められません。
②は、退職に追い込もうとするような動機・目的がある場合が典型例です。
③は従業員に不利益があるだけでは足りず、「著しい不利益」がある場合です。企業には強い人事権があるため、多少の不利益について従業員は甘んじて受け入れなければならないということです。
東亜ペイント事件で争われた事例は、「転勤命令を出された従業員に高齢の母親がいる上に、子どもは幼少で、妻の転勤も難しい」という事情がありましたが、それでも「企業側の権利の濫用とはいえない」という判断がなされました。
これは、まだワークライフバランスという考え方のなかった昭和の時代の判決です。現代で同様のケースが最高裁まで持ち込まれれば、また違った判断がなされるかもしれません。とはいえ、あくまで現時点ではこの最高裁判決が転勤などの配転命令権に関する基準ではありますので、①から③のポイントで判断されるのが基本ということは理解しておいてください。
転勤を拒否するとどうなる?
従業員が企業による正当な理由に基づく転勤命令を拒否した場合、降格や解雇などの処分がなされる可能性もあります。
ただし、企業によっては、正式な転勤辞令の前に転勤の意向を確かめる「内示」が行われることもあります。内示段階では、転勤を拒否したり交渉したりできる可能性があるかもしれません。
とはいえ、仮に転勤を免れることができたとしても、「企業からの転勤の打診を受け入れなかった人」として、人事評価において不利な方向に作用するかもしれません。この点については各企業の慣行や企業文化による部分が大きいため、ケースバイケースの面があります。
転勤を拒否できるケース
以上から、次のようなケースでは、転勤を拒否できるといえます。
- 雇用契約や就業規則に転勤について書かれていない
- 雇用契約で就業場所が限定されている
- 嫌がらせとして転勤を強いるなど、企業側に正当な理由がない
そのほか、やむを得ない事情があると企業が判断した場合は、転勤を拒否できるケースがあるかもしれません。このとき、東亜ペイント事件の判例から「転勤による労働者の不利益の大きさ」が判断のポイントになると考えられます。
どんな事情なら「やむを得ない」と判断されるかは企業によるため、よく話し合う必要があります。
- 例:
- ・家族の介護の事情から転居ができない
- ・子どもの養育の事情から転居ができない
- ・自身や家族の持病による通院等の事情で転居ができない
転勤のない会社の選び方
転勤したくないという固い意志がある場合、転勤制度のない会社に転職するのも一つの手です。この場合、応募時や選考過程で転勤の有無をしっかり確かめておきましょう。
募集要項の「勤務地」欄を確認する
求人票の「勤務地」欄を確認しましょう。「転勤有り」と書かれている場合は、入社後に転勤の可能性があります。転勤有りと書かれていない場合も、企業の規模や状況によっては選考過程で求人票に書かれていた場所とは異なる勤務地を提案される場合もあります。入社後のミスマッチを防ぐためにも、自分の意思をきちんと伝えるようにしましょう。
勤務地限定職(地域限定職)に応募する
あらかじめ勤務地を限定した採用枠を設けている企業があります。ただし、その詳細は企業によって異なり、「異動が全くない」「異動はあるが、転勤はない」「転勤はあるが、転勤先のエリアが限定されている」など、さまざまなケースが考えられます。自分のイメージする働き方に合うか、よく検討してください。
テレワーク(リモートワーク)可能な業務に応募する
テレワーク(リモートワーク)の普及とともに、転勤の必要性が減っている面があります。在宅での勤務も一種の「勤務地限定」ですので、そのような求人に応募する選択肢も考えてみましょう。ただし、社内の方針などで業務スタイルが変更になった場合に、転勤命令を受ける可能性もあります。
転勤する?しない?自分らしい働き方を考えよう
転勤は、単に職場が変わるだけではなく、プライベートを含む生活環境や人間関係が大きく変化する可能性もあります。
判断に迷う場合は、周囲に相談して客観的な意見を求めたり、転職を経験した人の体験談を聞いたりと、情報収集をしてみるのがおすすめです。自分自身がどんなライフスタイルを望むのか整理してみましょう。
そのうえで、やはり転勤を受け入れられないと感じた場合は、転職を考えるのも方法の一つです。転職サイトやエージェントサービスの利用も視野に入れ、自分自身が納得できる転職を進めてみてください。
※記事内で紹介した法制度やサービスは記事公開時点での情報です。
監修者プロフィール:
社会保険労務士法人シグナル代表 特定社会保険労務士
株式会社シグナル人的資本コンサルティング 代表取締役
有馬美帆さん
IPO支援、労務監査(労務デューデリジェンス)、労使トラブル予防・相談、就業規則作成、ハラスメント防止、各種セミナー講師、執筆などの活動中。企業の成長フェーズに応じ、一歩先回りした組織力強化コンサルティングを得意とする。
文:森夏紀/ノオト
編集:リブセンス + ノオト
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