転職会議レポート

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「人生は長い。他人に消費されるな。」これからの時代に必要なキャリア形成:佐藤尚之×転職会議事業部長対談 後編

前編では、佐藤さんの電通時代の仕事への姿勢やキャリア構築、独立の理由などを中心にお話を伺いました。後編では、長い人生においてどうキャリアを築いていくべきなのか、「キャリアのかけ算」という考え方について、掘り下げていきます。
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「人生は長い。他人に消費されるな。」これからの時代に必要なキャリア形成:佐藤尚之×転職会議事業部長対談 後編

前編では、佐藤さんの電通時代の仕事への姿勢やキャリア構築、独立の理由などを中心にお話を伺いました。後編では、長い人生においてどうキャリアを築いていくべきなのか、「キャリアのかけ算」という考え方について、掘り下げていきます。
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キャリアは「積む」ものじゃない。自分の「山」を複数もて

福島氏:佐藤さんは、電通での仕事のかたわら、個人サイトでの発信や食関連の書籍執筆なども手がけられ、現在は独立されています。さまざまな顔をお持ちですが、ご自身のキャリアを、今までどのようなお考えで築かれてきたのでしょうか。

佐藤氏:そうですね。キャリアに関しての考え方ですが、世の中の変化が少ない時代なら、ジャズならジャズだけに詳しい方が強いと思うんです。でも、世の中は変わってきています。 そして、どんどん変化が速くなってきている。たとえば今SEOのプロだったとしても、変化の早い時代、何年後かにはSEO分野そのものがなくなっているかもしれませんよね。
だから、キャリアは縦方向に積み続けるよりも、分野を増やしてかけ算していったほうがリスクが少ないし、独自性も出ると思っています。僕はよく、「100人に1人」をいくつか作れと言います。みんな10000人の中の一番、つまり1人になろうとするけど、そうじゃなくて、100人の中の一番になる、それをいくつか持つ、ということです。100人の中で1人の分野を3つ持つと、100×100×100だから、これが全部できる人って100万人に1人ということになる。

僕の場合、「広告」と「ネット」と「食」。最初は広告で100人に1人になって、次はネットで100人に1人、そして「食」分野でも、フレンチレストランガイドとか主宰していたし、当時は100人に1人になっていたと思います。そうなると、ネットと食に詳しい広告マンということで、そんな人、他にいないんです。ネットがまだいまほどでない時代はね。で、大手の食品メーカーから声がかかったり、社外に友人がたくさん出来たりする。独自性が出ると、人の目にとまりやすく、仕事も入ってくるようになります。そこに今度は「支援」とかが掛け合わされると、1億分の1になって、日本でひとりになります。まぁ「広告」できて「ネット」と「食」に詳しくて、しかも「支援」をかなり手がけている人なんて、特殊なので他にあまりいませんよね。

福島氏:たしかに、複数の領域で一定以上のスキルお持ちの方は、キャリアのかけ算ができ、これからの時代に強いと思います。

佐藤氏:イメージでいうと、キャリアは『山脈』を作ることです。山を作るには、ある程度自分が得意なところを真ん中にしないと山になりません。ひとつめの山は、現在の仕事であることが多いでしょう。僕の場合は、それが『広告』だった。
次に、山脈にするために、もう一つの山を形成します。自分の山を形成するのに何が良いのか、シビアに1、2個選択するんです。これは、『自分にとって心地いいことや好きなこと』を選択するわけではありませんよ。山を作るにはそれなりの勉強と努力が必要ですから。注力分野を決めたら、その分野を核にして、小さな山をいくつか形成していきます。具体的には、『食』を核にすると、周辺に『ワイン』とか、『うどん』とかの小さい山がいくつか作れるわけです。そうすると、広告の山々と、食の山々がつながって、山脈になっていくんですね。それを繰り返して、アルプス山脈を作っていくんです。

福島氏:なるほど、山脈ですか。そうすると、やはり核になる山と山との距離は遠い方がいいんですか?注力分野を決めるときには、できるだけ仕事の周辺領域は避けた方が、大きな山脈がつくれますよね。

佐藤氏:もちろん。できるだけ遠い方がいい。今の仕事に関係ない分野が良いでしょう。僕の場合は『広告』と『ネット』と『食』と『支援』だから、広告とネットはある程度周辺領域の山といえますが、食と広告は遠いよね。もしも営業職であれば、営業の人間が手を出してなさそうな分野がいい。落語とか、スカッシュとかね。この分野で、ある程度自分が他人に指導できるレベルになるまで努力するんです。

福島氏:山のサイズは変わるんですか?

佐藤氏:山のサイズは時代によって変わりますから、あまりそこを計算して作らなくていいと思います。ここらへんが得意だというのを真ん中にして、例えばSEOが得意なら、将来SEOがなくなっても周辺に小さい山が残っているという具合ですね。あとは、ふもとを太めに作った方がいいので、なるべく頂上を知っておくことをおすすめします。頂上を肌で感じることは大切です。

佐藤氏:広告の頂上にはなれなくていいんですよ。でも、広告の頂上を肌で感じる必要はある。そうすると自分の立ち位置がわかりますから、マッピングできるようになります。それをしないと、ぼんやりと進んでしまうことになりますから。スタッフにも、『100人に1人』をいくつか作れと言うんですが、皆そんなのできないって言うんです。でも、ある子は落語が好きと言うから、会社休んでもいいから、1年で落語を1000高座行けといいました。結局彼女は500高座しか行けなかったんですけど、広告がそこそこできて、落語に500高座行く女性って他にいないから、それが2つの山になるんです。それがきっかけで、テレビの仕事にも発展したようです。

福島氏:広告×落語の人材なんて、探してもなかなかいないですもんね。つまり、それはセルフブランディングに近いんですか?自分の独自性をアピールできるという意味で。

佐藤氏:ブランディングという言葉って、実際に自分のブランドを人に押し付けるっていう話だから、個人的にあまり好きじゃないんですよね。それは印象操作なんですよ。そうじゃなくて、落語だったら落語をちゃんと努力して知らないとダメであって、知っているように見せるのはダメ。何者でもない自分なんて、まだ全然たいしたことないし貧相でやせっぽっちです。そんな自分を上手に見せようってテクニックだけ身につけようとしちゃうのがブランディングです。

福島氏:なるほど。『見せ方』みたいな話になっちゃいますもんね。

佐藤氏:やっぱり中身勝負ですからね。

福島氏:お話大変興味深いです。我々30代のビジネスパーソンが、今から意識しておくべきことは、目の前の仕事をちゃんとやりつつも、仕事以外の関係性をきちんと構築し、他領域の分野における知見を培う努力を惜しまない、ということで間違っていないでしょうか。

佐藤氏:そうですね。でも、目の前の仕事はちゃんとやるんですが、あまりやりすぎると別の山を作る時間がなくなってしまう。目の前の仕事は6割程度にしといた方がいいですね。とにかく夜はちゃんと帰る。8時以降残って仕事しているのは、ろくなもんじゃない。
仕事が好きなのはいいことなんだけど、10年後につぶしがきかなくなる。仕事のテクニックを身につけても、その分野が縮小していったら展開がききません。それよりも、自分の山を意識しながら勉強する方に時間を割いた方が、将来役に立つと思います。

実は世界はチャンスだらけ?山脈をつくるとみえてくる「風穴」

福島氏:佐藤さんは、うまく回っていない世界に変化を与え、風穴をあけるのが得意だと仰っていました。例えば、東北大震災の時の、官民連携でボランティア組織を形成した、『助けあいジャパン』の活動もその一例だと思います。風穴を空けるコツというものはあるのでしょうか。

佐藤氏:話は全部共通していて、広告って山があって、あとに僕は食の山を作ったじゃないですか。食側から広告を見ると、穴だらけなんですよ。

福島氏:ああ!なるほど!

佐藤氏:それだけのことです。助けあいジャパンは、広告側から震災支援を見ただけ。僕は穴があるよ!って言っているだけですが、それを人に説明するのが得意だったわけです。穴を見つけるには、違う山から見ることですよ。

福島氏:山脈が大きいほどいろんな穴が見えますね。

佐藤氏:さっきの落語を極めた女性も、落語の山から広告を見たら、穴が見つかると思います。もしかしたら広告はこういう風にアプローチしたらいいことあるんじゃないか?ということに気が付く。落語広告論とか、書いた人今までいないでしょ?

福島氏:とにかくまず先に山を作ることですね。穴を見るためにも。

佐藤氏:そうですね、山をつくると結果的に穴が見えてくる。穴があることをアウトプットしていくと、あとから仲間は増えていきます。

福島氏:アウトプットの方法ですが、ブログ以外に普通の人ができる方法は何かありますか?

佐藤氏:仲間を持つことですよね。昔、15年くらい前までは、メディアに掲載されることがブロードキャスティング的な力につながりましたが、今はあまり影響力を持たない。それよりは、小さな繋がりからでもいいから発信していって、仲間がそれを二次伝達できるような仕組みを作る方がいいと思います。ちょっとしたコミュニティを作るのは、SNSが発達した今の時代であれば、そう難しくはないでしょう。

穴を見つけても、一人では全部できない。みんなの協力を得るための「文脈」とは

福島氏:いつ頃から、そういうキャリアのかけ算のような考えを意識されていたんですか?

佐藤氏:結果論のところも正直ありますね。『キャリアのかけ算』という考え方は、ここ10年くらいで意識しだしたことかな。ただ、きっかけは、ネットで発信をし始めて全然違う世界ができたことです。それが全ての始まりでした。
ラッキーだったのは、自我ができてキャリアを積んだ後に、ネットが登場したことです。それは、生まれてからずっとネットがある人たちよりはラッキーだと思う。

福島氏:ネットに興味を持ったのも、阪神大震災をきっかけにして自分で発信していこうと思ったからですよね。

佐藤氏:そうですね。被災中、水がどこにあるかが知りたい。それを発信できて人が受け取れるというのは、衝撃的でしたから。

福島氏:阪神大震災がきっかけでネットを活用し始めた。その15年後に東北大震災があった時は、今度は『助けあいジャパン』で、支援とソーシャルを掛けあわせ、活動に活かした、というご経験はとてもドラマチックだなと思います。

佐藤氏:そんな大したことはやっていませんよ。穴を見つけることは多少できると思っていますが、全部自分でやるのは無理だから。僕が穴だって指摘して、誰かがこの穴を広げてくれて、誰かが運営してくれて、というのは、仲間がいないとできない。みんなの協力を得るには、自分が信用されていないといけない。自分の信用を作るという遠回りをしないといけないから。日々、その点は意識しています。

福島氏:周りの信頼を得た上で、穴の存在を伝えていかないといけないんですね。でも、実際に組織で働く時は、『信頼』のように形のない、複雑でわかりにくいものよりも、早く結果を求めてしまいがちではないでしょうか。例えば地道にブランドを作り信頼を作る作業よりも、手軽で見栄えが良いからまず広告を打つ、というのも現実にはあると思います。さらには、そういう手法をとるビジネスパーソンの方が評価されることもあるかも。

佐藤氏:全幅の信頼はなかなかできないし、企業なんか誰も信頼しているわけじゃないんですよね。そうではなくて、文脈があることが大切なんです。例えば、僕はワインだけに詳しいソムリエを信用しないんですよ。ワインは得意かもしれないけど、ほかはわからない。映画も観てない、本も読んでない、すごい薄っぺらいかもしれない。そんな人がこのワインが美味しいって言ってもそのワインが本当に美味しいか信頼できないです。それよりも、そいつが何の映画を観てどう感じていて、こういう風に本を読んでいて、こんな人生観を持っているという文脈の延長線上で「私はこういう考えでこのワインをお勧めします」というのは、背景を含めて信頼できるというか、自分も納得できるじゃないですか。
僕の場合、サイトで美味しい食のことを書いて支持を受けたのは、書評も書いていて、音楽や映画のことも書いていて、日々どう思っているかを書いていて、こういうことを考えている人がオススメする店、という文脈ができていたんですよ。食事だけ詳しいものを出しても、みんなから信頼されないんです。大事なのは文脈。

福島氏:なるほど。では組織の中で信頼を得ていくにはどうしたらいいでしょうか。

佐藤氏:自分の文脈を見せることです。あなたの文脈をもっと見せるようにしてください。そして、事業とか、社員ひとりひとりの文脈ももっと見ようとすることです。

「消費されるな。自分の文脈を持て」

福島氏:佐藤さんには、今後の計画や目標はあるんでしょうか?

佐藤氏:昔は目標を立てて、それを日々意識していた時期もあったんですが、最近は、固定して目標を持つと思考が停止するし、世の中もすぐ変わっちゃうんで、あんまり持たないようにしています。ただ、自分が日々、アウトプットしてインプットしていくなかで感じることは、信用しようと思っています。こうした考えを、特定少数の人に、いかに発信してつなげていくか。強いていえば、それを全うすることが今後計画していることですかね。

あとは、なるべく目立たないように、人から消費されないようにすること。焦らずに進んで、できるだけ長持ちすることも大切だと思います。最初にもいいましたが、他人に消費されて擦り切れるのはごめんですね。

福島氏:消費されないように。いい言葉ですね。実際には、焦らないようにするのはとても難しいんですけどね。仕事で成功した時って、『波がきてる』と感じてどんどんアクセルを踏んでしまう。長持ちしようとするんじゃなくて、今来てるこの波に乗ろうとしちゃいます。僕はそんなふうに焦ってばっかりで、仕事に熱中しすぎて肺に穴が空いたこともあったり(笑)。

佐藤氏:今の時代、早熟な人しかロールモデルがいないですからね。昔の重厚超大な企業では、ゆっくり進んでいた先輩たちが山程いた。役員も遠回りして周り回った人がなった。でも、若い企業にはロールモデルがいないじゃないですか。特にIT業界やネット業界は、モデルになる先輩ってあまりいませんよね。

福島氏:何となくいつも不安で、とにかく走らなきゃ、早く進まなきゃっていう気持ちに支配されます。

佐藤氏:早く進まなきゃって必死に思っていて、もうすぐゴールにつきそうだってころになると、だいたいその直前でゴール自体が伸びるんだよね。マラソンしてるのに、ゴールが伸びるって一番辛いと思いませんか? 55歳の僕としては、大器晩成型をおすすめします。僕の場合は、70歳まであと15年。

福島氏:僕はあと約36年。このペースで走っていって、70歳まで果たして持つのか。。。

佐藤氏:ペースを緩めないと。『みんな走れ!』って言われて、みんな一生懸命走る。でも、逃げ切り先行型の馬に引っ張られて走っても、あなたがそういうタイプでなければ、先頭には勝てない上に、途中で疲れちゃって後ろから追い抜かれることもよくある。まさに消費される働き方です。中盤でじっと力を溜めたり、後半で一気に追い抜いたり、いろんなタイプがあります。逃げ切り先行型の人のマネはやめといた方がいいと思いますよ。

福島氏:お話ありがとうございます。最後に、若手のビジネスパーソンに向けて、佐藤さんから一言アドバイスをいただきたいです。

佐藤氏:今の若い人は焦りすぎ。消費されないこと、むやみに焦らないことですね。意外と人生は長いぞ、と。
後は、興味範囲が広くて、好奇心がある人は後々伸びると思います。いろんな山を作れるから、大山脈を築ける。そんなふうに知見を増やして、文脈がある人になってください。

【プロフィール】
佐藤尚之氏

1961年東京都生まれ。株式会社電通にてCMプランナーやクリエイティブ・ディレクター、コミュニケーション・デザイナーなどを経て、2011年の50歳の時に独立。 現在はコミュニケーション・ディレクターとして、広告の枠にはまらない様々な取組みに従事している。1995年より個人サイト「www.さとなお.com」を運営。 受賞歴として、JIAAグランプリ、新聞広告賞グランプリ、広告電通賞金賞、ACC賞など受賞多数。代表作は「スラムダンク1億冊感謝キャンペーン」「星野仙一優勝感謝新聞広告」「NECショートフィルム『it』」など。
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